計り知れない価値を生み出す一方、社会に新たな問題や懸念をもたらしつつあるAI(人工知能)。 倫理や法律の観点から科学技術と向き合い、課題解決をめざすELSIの役割について考える「ELSI大学サミット」が2025年3月 15、16の両日、東京都内で開かれた。大学や政府、メディアが果たす役割と、その連携の重要性について、研究者や経営者らが話し合った。
パネルディスカッションのテーマは「AIと人間の構想力の未来」。研究者らがAIとの向き合い方を討論した。
パネリストは、工藤郁子・大阪大特任准教授、斉藤邦史・慶応大准教授、徳田英幸・情報通信研究機構理事長、木下真吾・
NTT研究企画部門長、木村忠正・立教大教授の5人。石井夏生剰・中央大教授がモデレーターを務めた。
(チャットGPTなどで知られる生成AIの)大規模言語モデル(LLM)は言語だけでなく、世界の概念を理解し始めているとの見方 がある。人間の想定を外れて「うーん、そうか。そういうのもあるな」という答えも出すが、まだ納得感はある。 ところがAGIやASI(超知能)の回答は、それが何かさえ、私たちには分からない域に達するかもしれない。AIの内部が理解できないことは 不信感にもっながるため、NTTは米ハーバード大と内部構造を理解する「知性の物理学」の研究をしている。
ネット世論をめぐる私の研究では、「優位な集団が下位の集団を従えてよい」と考える対立的な志向が世界的にあふれてきている。 こうした「汚染された」文章データをAIが学習し、その生成文章で私たちの情動が刺激され、発信するーーー。 こうしたフィードバックを防ぐためにも、AIの内部構造に人間の情動や道徳といった要素がどのように組み込まれているのかを解き明かすことが欠かせ ない。
AIと共存していくために、ELSIが果たす役割とは。
科学技術が最大限のスピードを出せるよう、ELSIはブレーキやガードレールの役割を果たすと言われる。 加えて「こちらの方向に進んだ方がよい」と示すハンドルやヘッドライトのような役割も担えるのではないか。 AIのイノベーションとリスク対応を両立する上で、日本ではどんな価値を最も優先していくのか。社会に開かれた形での議論が必要だ。
どんどん進む技術とELSIの役割で言えば、法制度は「後追い上等」だ。地に足の着いた地道な作業が重要になる。 先回りしようと的を外してしまっては、誰も制度を守らなくなる。消費者保護など当たり前の理念を組み合わせ、堅実に対処していけ ばよい。
国の「ムーンショット型研究開発事業」制度には、最先端の研究開発チームの中に必ずELSIの研究者も参加して協業する仕組み もある『技術側の研究者だけが黙々と研究する時代は終わりを迎える。いずれAGIが実現するかもしれないが、 人間の技術開発チームと、ELSIチームの共創のカを引き出す「エンパワーメント」ツールにできることが理想だ。